【現代怪奇譚】海中世界(第11話)
私が友人の子供から聞いたお話です。
小3の子供の言うことですから、本当に?と思われるかも知れませんが、とても落ち着いた子で、話の辻褄が合っていた為に思わず聞き入ってしまいました。
ここでは仮に“Rちゃん”とします。
友人が『旦那さんの仕事の付き合いで同席しなければならない』というので、一晩彼女をうちのマンションで預かることになったんです。
けっこう私になついてくれていたので、私もRちゃんを預かることに抵抗はなかったし、夕食の準備をしている間に宿題を終わらせてくれたりと、まったく手が掛かりませんでした。
夕飯を食べながら、「Rちゃん、夏休み、家族で沖縄行ったんでしょ?楽しかった?」
と、話を振ってみると、「楽しかったよ!」とパッと顔を明るくしましたが、ちょっと何か引っかかったようでした。
「…お母さんにさ、言わない?」
え?なんだろう?とは思いつつ、あまり深く考えないで「うん、なあに?」と聞き返しました。
「海でね、あんまり遠くに泳いで行くのはだめだよって言われたの。」
そういえば、Rちゃんは水泳が得意で、市民プールに連れて行っても放っておけば延々と泳いでいる、と聞いたことがありました。
「でもね、沖縄の海ってね、ずぅーっと浅いの。足がつくし、楽しくて泳いでたら、どこだか分からなくなっちゃったの。」
「へぇ!すごいね!私泳げないから羨ましい!いっぱい泳いだんだね!」
実際何事もなく無事だったわけだし、長所を褒めてあげようと思いました。
照れ笑いしたけど、すぐまた記憶を辿るように、「うん…海もね、これくらいの高さだったし、でもどっちから泳いできたか分からないし、誰もいないし、怖くなっちゃった。」
“これくらい”という時手で付けた高さは首くらいでした。
子供の高さで首くらいというのですから、まだかなり浅瀬だったのでしょう。
とはいえ泳いできた方角が分からない(陸が見えなくなる)ほど沖なのに浅瀬?と、
沖縄すごいな。とか思いながら聞いていました。
「そしたらね、急にひとが泳いできたの。」
あら?まだ続くのね(笑)なんて思いながら、「良かったじゃん!一緒に戻れば安心だね。」と言ったら、ちょっと眉間に皺を寄せられてしまいました。
「でも、帰らないひとたちだし、口でおしゃべりしなかったから…」
“帰らない人”を勝手に“地元の人”と解釈しつつも“口でおしゃべりしない”って沖縄なまりが強すぎてコミュニケーションが取れないってことかしら?とか考えている内に、Rちゃんはさらに続けました。
「違うの。そこがおうちだって言ってたし、耳がなくてね、それで細い羽根みたいなのと、あとさ、ハダカみたいな感じ。」
こんな風な口調で説明してくれました。
興味が湧いた私は、このあと色々聞いてみたのですが、要約すると、そこに泳いで来たのは大人2人、子供3人。(追ってあとから大人2人更に増えたようです)
人のようだが皆耳がなく、背中にトビウオのような羽根がついていて、顔つきとしては、外国人のような顔立ちで、男性か女性かみたいな区別はついたと言います。
腕や背中の辺りには虹色の鱗状のものがあって、女性はバストのようなふくらみはあるけど乳首がなかった。肌は顔から鎖骨辺りまでが肌色。それより下は徐々に銀色だったんだとか。
泳ぎはとても早く、クロールでも平泳ぎでもなかったと。
全体を聞いてからようやく理解できたのですが、「口でしゃべらない」というのは、口を動かさずに、「どうしたの?(どこから来たの?)」みたいな言葉を額で受け取るような感覚だったそうです。
なにか話し掛けられると眉間の辺りが「ジンジンした」と言っていました。
男の子が不思議がってRちゃんの周りをくるくる泳ぎ回り、お母さんなのか、最初に話し掛けてきた女性は、「怖がらせちゃうから止めなさい」みたいなことを男の子に言ったのも聞いたと言います。
どうしたらいいか分からないので、Rちゃんは普通に「日本語で返した」と言っていましたが、話に少し間が空くものの、また向こうも同じ方法で返答してくれたそうです。
その女性は困った顔をしながらも、男性とあとから追いついた女性のほうと、なにかやり取りしたあと、「会えてうれしかった」「これは幸運なこと」「ずっとつながっている(?)」みたいなことをそれぞれが言い、真顔だった子供たちもニコニコしていたと言っていました。
「いつでも帰れるし、いつでも傍にいるのよ、私たちはずっとここにいる」と、あとから泳いできた女性が、Rちゃんの額に自分の額をつけたと思ったら、太陽を直接見続けたあとみたいに眩しくなって、陸から100mくらいのところに立っていた。とのことでした。
その間、その人たちに対してまったく恐怖感もなかったといいますが、正直私はそんなビジュアル見たら失神するかも…と思いました。
せっかく話してくれたのに怖がらせてもしょうがないし、「人魚かな?会えて良かったね!」なんて言ったら喜んでいましたが。
ニライカナイ?とかも考えましたが、何かしっくりこないというか…
当然それがなんだったのかはわからず仕舞いですが、その人たちはRちゃんに優しくしてくれたようだし、聞いていてちょっとほっこりしました。
もう少し大きくなったらきっとお母さんにも自分から話すんじゃないでしょうかw