【現代怪奇譚】地図にない場所(第7話)

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これは先週の話。

 

東京生活にあこがれて、地元で車の免許取ってようやく上京ってなって引っ越してきたのが1月末。

 

もともと東京に住んでた親戚の車を借りて、一人でドライブに出掛けたりして結構都会の道にも慣れてきた。

 

でも、飲食店のバイトで生きてるフリーターだったし、このご時世でお店も休業ってことになったから、家でマンガ読んだり、堕落した生活を送っていた。

 

とはいえ、アパートは狭いし、落ち着かない。

 

カラオケとかジムとか、ストレス発散できることもない!

推奨されてないのはわかってるけど、親戚に頼んで車を借りてドライブに出掛けた。

 

幸いガソリンも安いし、思いのほかすんなり貸してくれたからもっと早く頼めばよかったとか思ったくらい。

けっこう我慢の限界だった。

 

気候がいいし、窓を開けてラジオ流しながら運転するのはかなり気分がよかった。

人間、普段は普通にやってることでも、できなくなって有難みに気付くことってあるよね…

 

でもまぁ、最初は思いのほか、車は結構走ってた。

「みんな同じこと考えるのかな?」なんて思ってて、世田谷ら辺を走ってた時、急に耳元でブツッ!って何かが切れるみたいな音がしたの。

 

すぐラジオだと思ったんだけど、ザーザー音が鳴ってて周波数が合ってない感じ。

場所が悪いのかな?とか思いつつ、自分も耳が詰まったような感じがしてたから、とりあえず路肩に車を止めて鼻をつまんで耳抜きをした。

 

耳抜きの時一瞬目をつむったんだけど、驚くべきことが起こった。

 

視界が海。

 

一瞬パニックになった。

 

「え?え??」とか無駄に声上げて後ろ見たりしたけど、さっきの世田谷の道じゃない。

 

真っ直ぐにずーっと続く海岸線の道に居て真正面は夜の海。

耳がまだつまっているせいか、遠くの方で波の音が微かに聞こえるけど、それ以外は自分の脈の音なのかな?ボーって音が繰り返し聞こえるくらい。

 

とにかくUターンして海を背にして一本道を走ってたら松林みたいな所を通過した。

 

それでちゃんと車線のある道路に出たからとにかく海側から離れようと車を走らせた。

 

目の前の信号が黄色から赤に変わったからブレーキに力を込めた瞬間、ラジオの音が戻った。

 

咄嗟に顔を上げると、さっきの世田谷の道。

もう一回耳抜きをしてラジオを確認したり、「何?なに?え?!」とか叫んでたら、後ろからプッとクラクションを鳴らされた。

 

信号が青であることに気付き、慌てて発進させたけど、もう怖くなってソッコー帰った。

 

予期しないことが突然起こると、人間パニックになってまともに思考が働かなくなるんだね。

 

あと、暗い夜の海ってほんと怖い。あれマジでどこだったんだろう。

誰か知ってたら教えて欲しい。

車から降りてないから分からないけど、コンクリの道がずーっとまっすぐ続いてて、下はすぐ海になってるって感じだった。

 

こういう時、友達とか彼氏とかと一緒だったらもっと冷静だったのかな。

 

しばらく夜のドライブは止めとこうと思った。