【現代怪奇譚】消える妹(4話)

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俺は子供の頃から妹が嫌いだった。

 

嫌いというか、目障りだったっていうか、とにかく、何をやってもいつも目立つ奴で、年が2つ離れてんだけど、俺の幼稚園の遠足で母に付いてきた時も父兄たちの注目の的。

 

なんでかっていうと、妹はすぐ「消える」奴だった。

 

春の遠足でピクニックに行った時も、昼の時間ほんの数十秒前まで見ていた先生が居たのに消えた。若い先生だったから責任感からか、すごい動揺しているのが俺にもわかった。

 

母はというと、「気にしないでください、いつものことですから。ご迷惑をお掛けします」

と、慌てる様子もない。

 

今考えると「お前がしっかりしろよ」って話なんだけど、すでに当たり前のこと過ぎて、近所とかでも有名だったから、「すぐに見付かる」って確信があったらしい。

 

昼休憩にビニールシートを敷いていた辺りは一面が見渡せるほど広く、木々が生えているあたりまで大人が全力で走っても結構距離があったと思う。

 

「○○ちゃーん!」と誰かが叫んでも反応なし。

 

そんな中、キャンプ場の方から放送が流れた。

『××キャンプ場から、迷子のお知らせをします。黄色いジャンパーに紺色のスカートを履いた3才くらいの女の子を××キャンプ場管理事務所でお預かりしています。お心当たりの方は…』こんな内容だったと思う。

 

母親は「すみませんでした」と頭を下げ、一人で向かおうとしたが、理事長が、「お母さん、キャンプ場へはこっから2kmくらいありますから」と言って車で迎えに行くことにしたらしかった。

 

他の父兄は唖然。

その内の一人が「話には聞いてたけど…○○くん、妹はいつもそうなの?」と聞いてきた。

 

当時の俺にとっては「またかよ、あいつのせいで…」みたいにしか思わなかったけど、やはり「ほんの数十秒前までいた」「2km離れた所で見つかった」「まだ3才」という辻褄が合わない部分が引っ掛かってしょうがなかったようだ。

 

遠足にはいやいや付いて来たっぽいおじさん達も「どういうことなんだろう?」「実際その場にいると確かに変ですね!」なんて盛り上がってたのも憶えてる。

(距離的な単位とかはこの頃はわからなかったけど、大人になってから母に聞いた部分。)

 

それでこいつ、この後も何度となくいなくなっては周りの人を困らせた。

 

だけど多分、妹が最後に居なくなったのが次の年の夏だったと思う。

俺は小学生になってたから間違いない。

 

祖父母や親戚が暮らす家で、大人たちは夕飯の支度、子供は花火をして遊んでた。

 

そしたら、一番年上の従兄の兄ちゃんが、「あれ?○○(妹)は?」って。

俺は今線香花火をいじくってた妹に、ガンケシ投げたりしてたから「…え?」ってなった。

 

いつものごとくその後は大人総動員で捜索開始。

2時間くらい探したのかな?子供は部屋でトランプとかファミコンして待ってたけど、だいぶ腹が減って「なにやってんだよあいつ!ホント腹立つ!」とか思い始めた頃、1階のトイレから戻って来た従弟が「○○ちゃん、浅間神社に居たって!」っと言った。

中学生だった一番上の従兄は「浅間神社なんてどうやって行ったんだよ、自転車だって遠いぜ?」と変な顔をしている。

 

この騒動も、警察に連絡まではしないで済んだらしいが、相変わらず俺はただイライラしていた。

 

俺のイライラの理由はいつも妹が大人たちの意識を独占しているということもあったと思うが、戻って来る時の妹はいつも泣くでもなく、大体がぽかんとしている。寝ている時もあれば、妙に上機嫌でいる時もあった。

 

神社の時、最初に発見したのは叔父のお嫁さんだったが、暗くなった神社の賽銭箱の裏で話し声がして、覗いてみたら妹が居たという話だった。

 

「帰ろう!みんな待てるよ!」といったら最初は首を振って「お話してるから」と言ったらしいが、賽銭箱の隅に向かってブツブツと何か言ってから「帰る」と了承したらしい。

 

不思議と俺が知る限り、これ以降妹が突然消えることはなくなった。

 

もうそれから何十年も経ち、大人になってから妹に「お前、昔どこ行ってたの?なんですぐいなくなったの?」って酒飲んだ勢いで聞いたことがあったんだ。

 

そしたら「あー、母さんに教えて貰ったことあるけど、ほとんど憶えてないんだよね。なんかつまんないな~。とか、どっか行きたいな~。って思うと楽しい場所に行けるって思い込み?みたいなのはあったわ。」と、ろくにこっちを見ようともせず、じゃがりこを食っていた。

 

俺は今でもコイツが苦手だ。

 

そんな妹は三十路を過ぎた今でも結婚もせず、世界中色んなところを飛び回っている。